なぜおっさんは女子にダメ出しをするのか?自殺した電通女性新入社員のツイートを見て思い出したこと

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電通の女性新入社員の自殺が労災と認定されたニュース。

東京大学出身の高橋まつりさんのツイートが話題になっている。

ツイートから窺える異常な長時間労働、休日出勤、上司からのパワハラ、セクハラ。

東京大学出身であり、普通の人よりもずっと聡明で、おそらく思慮に長けているはずの彼女が自殺を選んでしまうほどに、彼女を追い詰めた過酷な状況が垣間見えて、背筋が冷たくなる。

 

男性上司から女子力がないだのなんだのと言われるの、笑いを取るためのいじりだとしても我慢の限界である。
おじさんが禿げても男子力がないと言われないのずるいよね。鬱だ〜。

— まつり (@matsuririri) December 20, 2015

 

このツイートを見て、ああ、これは私も言われたことがある、と震えた。

数年前、私はとある中小企業に新卒で入社をした。

私が入った部署の直属の上司は、私に会うなりこう言った。「お前は俺が採用するって決めたんだよ。」

ありがたいと思った。きちんと報いようと思った。

仕事は過酷だった。

出来たばかりの部署で、人手が全く足りておらず、毎日0時過ぎまで残業した。朝4時頃まで仕事をしたことも一度や二度じゃない。残業代はもちろん出ない。毎日の残業に疲れ果て、明日出来る仕事は明日に回そうと、ある日夜9時に帰ったら、先輩に「何早く帰ってんだよ。もっと出来るだろ」と呼び出されて叱責された。もちろん先輩は私の仕事の進捗状況なんて把握しちゃいない。ただ単に、自分より早く後輩が帰ったのがむかついたのだ。

部署の先輩は皆自分の仕事にいっぱいいっぱいだった。新卒の私を教育してくれる人なんていなかった。目の前に仕事が山積みにされる。教えられていないのに上手に出来るはずがない。とりあえずやってはみるが、当然失敗。上司に怒鳴られ、やっと何がダメで何が理想だったのかの見当がつき、遅くまで残ってやり直す。

新卒に長時間労働させることで、なんとか成果物を見られるクオリティにまで持っていかせる。OJTと言えば聞こえはいいが、非効率極まりない。先輩が前もって一言言ってくれれば防げる失敗は山ほどあった。いくら失敗が次の成長につながると言っても限度がある。新卒の心と体がすり減ることが前提の働き方。劣悪この上ない。

 

だが、それ以上に辛かったのは、上司からのダメ出しだった。

上司は私を連れ出し、飲み会で散々ダメ出しをした。仕事のダメ出しではない。そんなのは業務時間中にいやというほどされている。業務時間外にされたダメ出し、それは私の外見や性格や言動に対するものだった。

 

「ムートンブーツを履くな。男はムートンブーツが嫌いだ」

「LINEのアイコンをアニメキャラにするな。男が引く。今すぐ変えろ」

「料理が出来ない?男からしたらありえないぞ、それ」

「お前は世間を知らないから、いろんな男と付き合って経験値を上げろ」

 

今考えれば立派なセクハラとパワハラのオンパレードだが、当時の私はそう思わなかった。自分より年上の、それも自分を採用してくれた上司の言葉に、私は素直に従った。純粋に信じていた。自分のためを思って言ってくれているのだと思った。自分には女として色んなダメな部分があって、それを指摘してくれているのだと。

そして、とてもしんどかった。仕事でも女としても自分はダメなのだと、深く落ち込んだ。苦しかった。

 

上司はよく私に言った。

「彼氏が出来たら報告しろよ。大丈夫かちゃんと見てやる」

 

彼氏は出来た。社内の男性だった。

私は上司に報告をしなかった。あんなにアドバイスしてくれたのに、言わないのは申し訳ないかな、という気持ちも少しあったが、気恥ずかしさが勝った。

ある日社内の暇人が私たちが付き合っていることに気づき、ご丁寧に上司に暴露し、上司は私の彼氏を呼び出し恫喝した。

「何、俺に黙って勝手に付き合ってるんだよ!ふざけるな!」

 

目が覚めた。

別にこの人は、私のためを思っていろいろ言ってくれていたわけじゃない。

それに、私に何か女としての欠陥が特別あったわけでもない。

この人は単純に、私と何かしらの形で関わりたかっただけ。そのために取れる手段が、『ダメ出し』しかなかっただけだ。

『頼りになる大人』の皮を被り、自分の支配下に置きたいがために、私に自己否定感を植え付け、何の根拠もない偏ったアドバイスという名のクソバイスを繰り広げて、自分勝手に気持ち良くなっていただけ。しかも、本当にそれが相手のためだと信じ込んでいるというオマケ付き。

それに気づいた瞬間、大きな徒労感が私を襲った。

しばらくして、私は会社を辞めた。

 

もちろん、全ての男性上司がこうとは言わない。

だが世の中には確実に、若い女性社員にダメ出しをして、悦に入る男性上司は存在する。

ただただ若い女性社員と話したい、関わりたいという一心で、上司という立場を利用し、俺は人生の先輩だという体で、クソみたいな説教を垂れ流す。その説教が女性の心をゴリゴリ削っていることなんて、まるで気にしない。場を盛り上げるため、自分の心を満たすため、奴らは平気で、他人の心を踏みにじるのだ。

高橋さんも、そういったつらい境遇に置かれていたのではないだろうかと、邪推せざるを得ない。

 

これは男性に限る話じゃない。立場が上の女性社員が、若い男性社員に同じようなことをすることもあるだろう。また、同性に対しても十分起こりうる話だ。

 

ヤマシタトモコ作の漫画「ひばりの朝」の中で、女性教師が生徒たちに向けて独白するシーンがある。この女性教師には、一人の女子生徒が崩壊に向かう様子を黙殺しているという背景がある。

 

敵と味方以外にも人間はいること

きれいときたない以外のものごともあること

生と死以外の選択肢もあること

大人と子供以外の人間もいること

誰もきっとあなたたちに教えてはくれません

私も

 

大人は

自分がかつて子供であったことを忘れないと生きてゆけないのです

だから私はあなたたちを助けません

 

ヤマシタトモコ作『ひばりの朝』第2巻 祥伝社

 

そういえば件の男性上司は、よく言っていた。

「俺、昔、上司にすげえパワハラされて大変だったんだよ」と。

「仕事が終わらなくて、毎日怒鳴られて、カプセルホテルにずっと泊まり込みでさ……」と。

男性上司を、最低最悪の卑劣漢、と吐き捨てることもできる。実際そうしたい。

だが、その男性上司の言葉が頭から離れない。

彼もまた、誰かのサンドバッグになったことがあったのだ。

 

パワハラ。セクハラ。

立場を利用した、強い者から弱い者への暴力。

昔からずっとあった。これからもきっとある。

逃げのびて、繰り返す人がいる。逃げ切れず、命を絶つ人がいる。

 

高橋さんの死の主な理由は長時間労働であると言われている。

しかし、上司からのパワハラ、セクハラも、彼女を追い詰めた原因の一つであることは間違いないと思われる。

 

厚生労働省では会社に対応してもらえない場合の、セクハラ、パワハラに関する相談を請け負っている。

職場でのセクシュアルハラスメントでお悩みの方へ |厚生労働省

総合労働相談コーナーのご案内|厚生労働省

こうしたつらい状況に置かれた人が逃げ込める場所がもっとカジュアルになることを願う。

 

そして、こうも思う。

私はパワハラもセクハラもしない。

自分の立場を利用して誰かをサンドバッグにしたりしない。

自分がされたことを決して忘れないし、自分もされたから、誰かにしていいなんて思わない。絶対に。

 

 

ひばりの朝 1 (Feelコミックス)

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